呑舟の魚 [冒険ミステリー]

タイトル    呑舟の魚
作者     西村 寿行


(あらすじとデータ)

残忍な行為によってのしあがった先祖を持つ、
田舎の名家に生まれた兄弟。

弟は先祖の呪いを受けて生まれ、
虐げられて育てられた。
そして、子供の頃に神隠しにあった。

兄は嫡男として、その地方における
絶大な権力者として、権威に守られ、かしずかれ、
その実、胆の据わらない、卑少な男になった。

弟の神隠しから20年。
突如、現れた弟に怯える兄。
財産分与をしたくないあまり、
採算の見込みのない
私設飛行場を作り与えることによって、
弟を懐柔しようと画策するが…


(私はこう読んだ)

ズバリ、寿行作品最高傑作。

初めて読んだのが、高校生だったせいもあって、
当時は、その執念と熱気の凄まじさばかりに
目がむいていたけれど、
兄と弟の運命的な確執は、いま読むと哀しいです。
理性ではどうにもならない業と、
業に生きるしかできない人間の虚しさが、
ちゃんと描ききられていて、素晴らしい。
エロいバイオレンスを書く
大衆作家であるところの西村寿行の、
本質ともいえる文豪ぶりを見せつけられた感があります。

でも、文豪みたいな権威主義はくそくらえ、な。
破天荒にバカ本を書いててたい作家の反骨はそのままで。
エンターテイメント性は捨てない、
ぶれない姿勢も心地好く。
要するに、作品としてのバランスがよくて、
かつ、抜けるところは突き抜けているあたり。
個人的には一番好きな作品です。

それから、読み直して感じたのが、
弟の友だち!
とっても素敵。
友情関係の距離感がいいんですよね。
これって、かなり「ニヒル」なんじゃないでしょうか。
ヒロイン3人も、記憶より断絶カッコ良く、
意外とキャラも立っていたのでした。

寿行が描く、しぶとい人たちは、
やっぱりカッコ良いです。

Hシーンばっかり書いてるわりに、
作品に不思議な清潔感があるのは、
不屈の魂がそこにあるから。
たぶん、それは普遍の美しさであって、
人間の哀しさでもあるんだと思います。

とは言え、
バカ本カテゴリーに数えたくなる驚愕の展開は、
さすが寿行大先生。
特に、クライマックスの無人島脱出は、
日本バカ本史に残る素晴らしさです。
ハッキリ言って、これに比肩できるのは
「あしたのジョー」の豚ロデオぐらいでしょ。

とにかく、やたらテンションがあがります。
バカ本好きなら、ぜひ読んでみて欲しい一冊です。


呑舟の魚 (徳間文庫)

呑舟の魚 (徳間文庫)

  • 作者: 西村 寿行
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2000/12
  • メディア: 文庫



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