ルインズ [ホラーミステリー]

タイトル    ルインズ (廃墟の奥へ)
作者       スコット スミス  


(あらすじとデータ)

メキシコのカンクンでバカンスを楽しむ若者たち。
仲良くなった同世代の観光客マティアスの弟を探しに、
ジャングルの奥地に行くことに。

気軽な冒険気分は、たちまち地獄へ急直下。
白人文明から遠く離れ、
逃げ場のない丘に追いやられた一行。
生き残る道はあるのか。


1995年「このミス」1位を獲得した「シンプル・プラン」の作者の第二作目。


(私はこう読んだ)

こえー。
まじ、こえー。
なにが怖いって、冒頭の大雑把な感じがめちゃ怖いです。

ってか、どんだけフレンドリーなのよ、アメリカ人。
ダイビングポイントを喪失したガイド(マヌケだけど、いそうだよねえ…)の代わりに、
難破船の位置を教えてくれたドイツ人を、海上でピックアップ。
どこから、ナニで来たのよ、ドイツ?と、ドキドキするのは、日本人の私だけ。

そういうおおらかなココロが、
映画「オープンウォーター」みたいなダイバー積み残し事故を平気で起こすんだろうけど、
それはそれとして。

彼らはさらに、
名前も知らない、ついでに言葉も通じない、ギリシャ人とも酒場で意気投合。
翌日から行動をともにします。
あげく、その得体の知れないガイコク人たちと、
ジャンルの発掘現場まで、軽装でふらふら出かける無防備さ。
なによりそれが怖かったです。


ルインズ〈上〉―廃墟の奥へ (扶桑社ミステリー)

ルインズ〈上〉―廃墟の奥へ (扶桑社ミステリー)

  • 作者: スコット スミス
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2008/02
  • メディア: 文庫


実のところ、
彼らのその無防備で無邪気なところがミソでね。

ジャングルに入った途端、
無防備さは自分たちの文明に守られているから
許されている傲慢さだったことが
明確になるわけ。

でも、けっこういるんだよねえ、そういう傲慢な人って、実際。
ビーチサンダルで富士山登る人とか。
サメのいる海で日焼け止めオイル塗っちゃう人とか。
勉強不足で自然をナメて、
土地の神を踏みにじってるのに、
無知のまんまズカズカ歩いて、平気なの。
で、冒険気分だったり、
パワースポットにいるからとか浮かれてて、
しっぺ返しくらっても、
自業自得だってことさえ分からないのね。

この話の怖さって、
たぶん、そういうあたりかなあ、と。
少なくとも私はそういう風に読みました。


内容は「ショップ オブ ホラー」みたいな人喰い植物の話。
もしくは、膝骸骨に繁茂するフジツボ伝説ハデハデ版というところ。

正直、最初に期待してた感じとは違ったけど、
サブタイトルが「廃墟の中へ」では誤解しても仕方ないと思います。
予想では、もっと洞窟探検とかして、
密室サスペンスばりにお互いの足を引っ張りあって、
なんなら殺しあったりとかもして、
最後はマヤの古き神々とかが光臨したりする
展開を妄想しちゃってたもの。

別に廃墟モノでもないし。
発掘とかもしない。
殺戮神はいるにはいるけど、全然なんの説明もないし。
そういう意味で、地味といえば、地味。

せっかくマヤ文明のど真ん中にいるのに、
そのへん、全然スルーなのとか、
設定負けと言われれば、そうかもしれないけど、
日本から卒業旅行でハワイに行く学生の何人が
ハワイの神話を知ってるか、って思ったら、
そりゃ、アメリカの学生だってマヤの神話なんて知らないよなあ。

普通の人は、
異邦人として、誰にもなんにも説明されずに死ぬわけです。

怖いなあ、って思います。


自分たちの傲慢さにも気づかない無知を丸出しにして、
腐ったバナナの皮を食べてもヘイキなくらい丈夫な胃袋を持つ登場人物たちは、
だけど、
良心の呵責で吐いたりしちゃうくらいナイーブなのね。

「シンプル・プラン」の作者と思うと、そっけない感じもするけど、
ゆらぐ感じとか、
結果が出せない弱ゾウぶりとか。
普通のワカモノなんて、所詮こんなもんだよねえ、って。

どちらかと言えば、シンプルに極限での心理劇として読んで正解。
そんなにはドロドロしてなくて、
案外へなちょこで、
あっけない感じが、じつはリアルな気もする、サジ加減。


なんだかんだ言って、
サバイバルホラーの傑作だと思います。

読んでいる間は、
ノドが渇いたとか、暑いとか、臭いとか、
生理的にクる描写が多いせいか、
眠りが浅くなっちゃったほどに、のめり込みました。

人喰い植物は綺麗でファンタスティックだし、
ホラーとして笑える部分もちゃんとあるし、
ギリシャ人はカワイーし、
しっかり不条理だし。

夏の日差しのもと、ビーチサイドで読みたいホラー作品としてノミネートしたいと思います。


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