モールス [ホラーミステリー]

タイトル    モールス
作者     ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト


(あらすじとデータ)

オスカルは12歳。
深刻なイジメを受けている彼の
アパートの隣に、
奇妙な美少女エリが越してくる。

そこは国家が計画した住宅地。
殺人鬼が徘徊する、
歴史のない、空虚な町のこと。

孤独な少年の行き場のない怒りは、
なんでもいい、たったひとつの出口を希求していた。
たとえ、それがどうしようもない恐怖であったとしても。


今注目のスウェーデン発ミステリー、
そのスウェーデンのスティーブンス・キングとの異名を持つ
リンドクヴィストの初邦訳。

映画「LAT DEN RATTE KOMMA IN」
(邦題「ぼくのエリ~200歳の少女」)の原作


(私はこう読んだ)

映画のあまりの素晴らしさに、原作である本書を読みました。

吸血鬼モノとしても、出色の出来ですが、
暗黒の児童文学としても素晴らしい作品です。
映画以上に悲惨な子供社会の残酷さに
打ちのめされました。

イジメというより、殺人未遂だもの、これ。
シャレにならん。
怖いです。
子供たちが、みんな壊れていて。

世界観としては、全篇通しての
凄まじいまでの虚無感に驚かされます。
自覚してない人の孤独までも
あぶりだしてくる作者の容赦のなさに
うなりました。

特に、主人公オスカーの母親が可哀想なくらい孤独で。
小説の中には描かれていない場所で、
彼女がどれだけ泣いたかと思うと、
切なくなるくらい、
つまり、行間にハッキリと描かれているドラマがあるんですよね。
そのぶん、読み応えがあります。

そして、
登場人物全員が、どうしようもなく孤独であることが、
ラストシーンに不思議な説得力を持たせているように
感じました。

総じて、リンドクヴィストにはキングのような
粘着質な怖さは薄いけれど、
圧倒的な虚無感で、キングにはない恐怖を勝ち取って見えます。



MORSE〈上〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)

MORSE〈上〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)

  • 作者: ヨン・アイヴィデ リンドクヴィスト
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/12/30
  • メディア: 新書


あと、個人的に衝撃的だったのが、
「恋人が吸血鬼なのは許せるけど、
本当は女の子じゃなくって、同性だったのは、
ちょっと複雑・・・」
っていうセンス。
吸血鬼のほうが困ると思うんだけどなあ、私は。
だって、ヒトの血ィ吸って、殺しちゃうんだよ?

これはどういうことか、っていうと、
ジェンターよりも、
人間であることそのもののアイディンティティのほうが、
より曖昧なんだってことなんだと思うんです。
それって生物としてマズいよなあ、って。

だって、それで、
主人公は吸血鬼と生きることを選択するんだから。
吸血鬼にはならないけど、
人間社会で生きることは止められるんだから。

なんとなく、
そういう感覚って、
人間というものが「進化の次の段階」に在るようで、
ドキドキしちゃいました。


それにしても、映画はよくできていたなあ、としみじみ。
とにかく、子役が凄いんだもの。
原作もかなりイケてる吸血鬼モノだけど、
映画も相当に萌えどころを突かれたもんなあ。

いや、面白かったです。


(続きの続き)

ハリウッド版の映画も見ました。
スウェーデン版よりは、生臭さが薄かったけど、
それ以外は比較的、元のまま作られていて、ホッとしました。

でも、逆に言えば、新しく見せ場が増えていたわけでなく。
新しい背景が加えられていわわけでもなく。
全体的に軽い感じになっているくらいで。
リメイクの意味のなさが、さすがのハリウッドというところ。

ホラーとしても、異種族恋愛モノとしても、
スウェーデン版に軍配です。
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